このレポートは、今回の法律改正に合わせて緊急に執筆したものです。 平成17年4月1日 内航海運と日本船員の未来について 「内航海運」と聞いて、どのくらいの方がご存知だろうか。
内航海運は、日本の国内輸送全体(トンキロベース)から分担率を見ると、実に42%を占め、とりわけ、鉄鋼、石油、セメント等の産業基礎物資輸送について見た場合には、その割合は約80%にも上る。内航海運は日本社会の基幹的輸送機関なのである。 残念なことに、トラックや鉄道、航空機等と違い、私たちが貨物船を目にする機会は極めて少ない。ならば、海上輸送事業者を始め、海運と身近に関わっている団体、企業は、もっともっと海運を社会にPRし、社会生活に不可欠なこの海運をしっかりと見守っていく責任がある。日本国を囲む海上には今も、内航貨物船団が24H体制で私たちの社会生活を支えているのだ。 海上で営まれる船員の生活には、先賢から受け継がれた適宜な文化が脈々と根付いている。定評ある日本国の海技(海上技術)を支えてきたのも、そこに育まれた船員の気質に他ならない。
見上げるほどの巨大貨物船でも、洋上では大波にのまれるままの世界。国内航路を航海する船舶にとって、台風を避けるような大きな針路変更は難しく、内航船員たちは正に命がけで自然と戦っているのだ。こうして国民生活を守っている事実が、海上に生きる日本内航船員の誇りとなっている。 =日本船員に存続の危機が迫っている= 国内輸送(内航)は、自国民のみで安定維持していくことが政策的に掲げられている。この規制政策は、カボタージュといって国際的に採用されている制度で、国家安全保障上の観点からも自国民で生活物資の安定輸送を確保していくことは重要である。しかし内航界の実態は深刻な若年船員不足の中にあり、現場での海技の継承は勿論、今後の船員不在までが非常に深刻な問題となっている。 ここ迄きて、とうとうこの規制を撤廃しようとする風潮まで現れてきた。簡単に述べると、外国人船員への雇用の切り換えだ。業界新聞社が内航事業者を対象に行ったアンケート調査からも、かつて9割が制度撤廃に絶対反対としてきたのに対し、近年には徐々にその姿勢が軟化を示していることが解ってきた。 今回、そんな最中に施行が決まった内航活性化3法は、海上運送事業が日本社会を構成する一つの産業として、公正な競争環境を形成していかねばならないという“責任”を公に宣言したもののように思える。 船員に培われてきた「負けじ魂」の美徳が、一方では事態の悪化に拍車をかけてしまった可能性も否定できない。しかし、命懸けで自然界に挑む海員たちが、さらに労使間で主張し争わなければならないような世界を求めたくもない。逞しく爽やかな航海士たちの気質、そこに育まれたスマートな海技を思う時、ここ日本国においてその海技の継承は、時を遡れば、陸上社会からの応援、協調によって支えられてきたものではないかとさえ思える。 今回のような強行な法整備は、業界そのものの活力を低下させる危険もある。しかし、日本社会が一丸となってその理想を模索していくことになれば、決して悪い結果 にはならないはずである。 「全日本内航船員の会」の取組みは、まだ始動して間もない微弱な活動ですが、船員自らの感性で船員生活の充実と活性を計り、船員文化復興を目指すことへの一助となり得ることを目標に頑張っています。陸上からの貴重な意見も聞きながら、この国に適切な船員の在り方を探り確立していくためにも、すべての人からの協力、応援を求めるものであります。(了)
全日本内航船員の会 事務局
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