全日本内航船員の会 こんな時代だから考えたい「同窓会」の役割 全国海員学校同窓会掲載
発行風景

こんな時代だからかんがえたい「同窓会」の役割

機関誌発行のために事務局に集まった海員学校の卒業生たち。
一冊ずつ手作業で、2〜3日かかる(撮影協力:全国海員学校同窓会)


  数ある「同窓会」の中でも船員の学校の同窓会ともなれば、なおさら積極的に参加していけるような人は少ない。
  卒業後、船へ勤務していれば卒業生が皆で顔をあわせることはやはり困難だろうし、船員を取り巻く問題をさまざまに抱えた海運産業にあって、夢なかばにして船から去っていった卒業生たちも、必死で社会に再適合する努力を続けているところだろう。
 また、激変を続けてきた海運の世界は、同時に日本人船員の海上生活の実情や諸問題をも大きく変化させているため、同窓会の運営に直接かかわることのできる船員OBたちと現役船員たちとの間には大きな隔たりが生まれやすいという厳しい現実まである。

  しかし、わたしたち卒業生にとって、現役船員であっても、OBであっても、あるいは学生であっても、「同窓会」を共通の継続的財産として、その存続を求めていくのは当然の成り行きである。学校を卒業して船員としての勤務が始まれば、初めての船員としての多くの悩みや心配事も出てくる。慌ただしく少数定員で運航する船舶勤務の中で、そんな時には広い交友関係での相談が大きな救いとなる場合もある。
 現在の、船員の声を広く集められている機関があるとは思えない実情の中では、船で頑張っている卒業生の直接参加の有無を超えてでも、OBたちによる頼りがいのある「同窓会」の構築はすでに急務だといえる。

  今、卒業生たちの主な勤務先は内航である。中小零細が大半を占める内航業界では海員組合の組織率も低く、それぞれの会社が立場たちばの事情の中で課題を乗り越え、あえぎながら仕事を推し進めている。OBたちが外航船に勤務していた頃と比べれば、個々の課題におかれた船員が組合などに期待することも少ない。このような状況下で、現役船員となった卒業生を支援、応援するときに求められるのは、船員経験者、OBたちの自主的な「良心」にかかっている。

積まれたプリント

各ページ、プリントされたばかりの会報。いつも人手を求めている

 これは近年の社会全体にも当てはまると感じる。船を降りて10年、この不景気に、わたしも今年の初めに契約社員から突然失業した。技術職であったおかげで、たまたま正社員の当てが見つかったが大変な世の中だと感じている。
  ハローワーク(職安)では子連れの若いお母さんが子供を連れて求人情報の検索。赤ちゃんの泣き声が響き渡る様子は、失業者増加が行政の犯罪だと言われる理由をまざまざと見せつけるものだ。
  そんな時にも、「若者は仕事を選んでいるのではないか」「介護産業に人が足りていないって聞いた」「農家に行けばいい」という会社勤務から退いた年配者の声がある。
  今、仮に介護の仕事に就きたくても、賃金が生活保護を下回るという問題がある中で、もともと介護に興味のない人にまで、介護でもやっておけと言う。人はそれぞれ心を持って生きているし、将来に向かって幸せになるための計画を励みに生きている。
  わたしは社会を構成する一員として、若い人が好きな仕事を選んで努力できる社会を願うことからは逃げたくない。人生の中でいろいろな壁には直面するけど、自分なりに人生の先輩としては、後輩に向かって「自己責任だ」などと冷淡に話す人間にはなりたくない。
  今、この社会の未来の行く末に「良心」が試されている。高齢化社会を迎えた現代日本に、先輩たちの役割は大きいと思う。

 船員経験を持つわたしたちの「同窓会」は、幸いなことに共通の「船員の理想」を持つことができる。
  今、 後輩たちを守るためにOBたちの協力がほしい。社会性のある良心に基づいた「同窓会」の役割は、産業と社会の明るい未来へも寄与するに違いない。

作業風景
- 全日本内航船員の会 -